菅野健の“いま、なにつくってるの?”第5回の登場は、三好愛(みよしあい)さん。
東京藝術大学美術学部を経て、同大学院美術研究科では版画を専攻。日常の中に息づいている“言葉”に、独自の視点から“形”を結びつける表現方法で活躍の場を広げています。その創作活動の背景にある想いとは?この春に卒業を控える彼女が6年間を過ごした、思い出のキャンパスでインタビューです。

菅野:6年間の大学生活がもうすぐ終わりを迎えようとしています。三好さんにとって東京藝術大学はどんな場所でしたか?
三好:自分のアトリエに居る時間が一番長くて、落ち着ける場所でした。5~6人が共同で使う15畳くらいのスペースだったのですが、大好きなテクノ系の音楽をかけながら制作していた日々が懐かしいです。
学部時代の4年間、そして大学院での2年間。いま振り返ってみて、いかがですか?
最初の4年間は主に個人プレーというか、自分自身の表現を究める時間でした。周囲の人々と積極的に関わり始めたのは、大学院からです。グループ展や、他学科の学生とのコラボレーション、教授との関係など、最後の2年間でより深まった感じですね。
色々な方と出会って、話して、関わり合う中で、美術と人間性が表裏一体になっていることが興味深かったし、それに我も強くなりました(笑)
三好さんにとっては、自分自身がどういう人間か整理がついた、“個”が確立した学生生活だったんですね。入学当初の2年間は絵画科専攻だったそうですが、そもそも美術の道に進んだ理由は?

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絵というよりは、“表現”そのものに興味があったんです。小学生の頃から文章を読むことが大好きで、いつかは本の翻訳や、映画の字幕をつける仕事に就けたらいいなぁ…と漠然と思っていました。
解決方法が決まっているような数学の証明問題は大の苦手。“ゼロから生み出す”分野にあこがれていたんです。
それが段々と美術の方向に絞り込まれていったのは、中高の部活がきっかけです。
母校は中高一貫校の女子学院だそうですが、その6年間も美術部に入っていたのですね。
当時の顧問だった美術の先生とは大の仲良しで、今でもつながりがあるんです。
部活では油絵の風景画を描いていましたが、絵の具にさわること自体がとにかく楽しかった。毎年スケッチ合宿があって、自然豊かな場所で自由に描いた体験も思い出深いですね。
進学校だったこともあり、私は美大に進むこと自体を特殊なことに考えてしまっていました。でも、先生の「美術を選ぶのは特別なことじゃないよ。国語や数学を選ぶみたいに、美術を選んでいいんだよ」という言葉に励まされ、気持ちが固まったんです。
三好さんの表現力や部活での取り組みを、ずっと間近で見つめてきた先生ならではの導きだったのでしょうね。
高校一年生の時に美大進学を決意してからは、受験に備えて予備校に通い始めました。実は私、デッサンがものすごく下手で…「描写力を試される試験だったら、三好は落ちる」と先生に言われていたくらいです(笑)。受験した東京藝術大学の入試では、“イメージ力”を発揮できたのが幸いでしたね。
- 版画は自分との距離がちょうどよい
晴れて、芸大の美術学部に現役入学を果たした三好さんですが、学部3年で“版画”のコースを選んだ背景には何があったのでしょうか?
肉筆は“自分自身と作品との距離が近すぎる”と感じるようになったんです。何か、もうワンクッションほしかった。その点、版画はきちんと自分の“手”が介在した上でエディションが取れる、ほどよいアナログ感が魅力。単なるカラーコピーでの複製とは違った味わいが気に入っています。

版画の手法の中でも、木版や銅版でなく“シルクスクリーン”を選んだ理由は?
すごく単純な仕組みで何にでも刷れる、簡単にいうと“ステンシル”のような手法。何より、“フラットな塗り”を表現できる点に惹かれました。PCにデータとして取り込み、画面上で見た時に、すごく良い感じになります。
もともと印刷・プリントで表現されるものが好きで、紙やwebなど媒体を選ばずに機能する作品を創りたかったんです。
三好さんの表現の特長であるフラットな質感、シンプルな面白さは、シルクスクリーンの技法によって活きているんですね。
